テーマが美術史という、ユニークなコンセプトの恋愛アドベンチャーゲーム。制作者が多摩美術大学日本画専攻・情報デザイン学科の学生有志ということもあり、印象派・後期印象派の画家や作品に関する蘊蓄が豊富。非常に興味深く、楽しませていただいた。ゲームでは、誰もが名前を聞いたことがあるであろう巨匠たちが数多く登場し、主人公との交流を深めてゆくのが楽しい。主人公が彼らとなかよくなり、その活動に参加してゆくのを見ることで、印象派・後期印象派の思想や成立過程を自然に理解することもできる。
グラフィックも美しく、操作性もよい。ゲームとしての完成度は高い。ただ、純粋に恋愛ゲームとして考えるのであれば、恋愛の要素は薄めに感じられ、その点だけはちょっと惜しかった。みんなから意見を求められたときなどの主人公の答えがぼやかされていることが多いのも少し残念。だが、どちらもこの作品のコンセプトを考えると、やむを得ないのかもしれない。全体に“おとなしくて、上品な作りの作品”という印象を受けた。
乙女ゲームとしては多少物足りないかもしれないが、かえって誰もが抵抗なく楽しむことのできるゲームに仕上がっているともいえる。誰かとのエンディングを見たあと、ほかのエンディングも見てみたくなる──そんな“味のある”お勧めのゲームだ。
(秋山 俊)