DVDやBlu-rayの動画ソフトは、その多くがメディアをプレイヤーにセットするとトップメニューが表示され、好きなチャプターへのジャンプや音声切り替え、特典映像の再生、静止画スライドショウなど、さまざまな機能を楽しめるようになっている。DVDやBlu-rayをパソコンのプレイヤーソフトで再生する場合でも同様だ。一方で、純粋にパソコン上だけで再生することを目的とした「動画ファイル」は、対話的メニューなどは持たないことが多く、せいぜいできても、チャプターの設定とジャンプくらいのもの。それ以外の機能は基本的にはプレイヤーソフトにまかされる。「TMPGEnc PGMX CREATOR」で作成されるPGMXファイルは、このDVDやBlu-rayの再生環境を、光メディアではなく、パソコン上のファイルとして再生することを目指した新たな形式だ。
「わざわざ新しい形式を作らなくても、DVDやBlu-rayと同じ仕組みでよいではないか」という意見もあるだろう。たしかに一部のプレイヤーソフトには、ハードディスク内の、DVDと同じ構成のファイル群を再生できる「フォルダ再生」機能を搭載しているものもある。また、そうしたAV機器向けの形式ではなく、HTMLなどの技術を使えば、同様のことを行える。
それらと比較したPGMXのメリットは「1ファイルで機能を実現できるかどうか」にある。DVDにしろBlu-rayにしろ、HTMLでの実現にしろ、動画データとナビゲーションデータ、複数のファイルとフォルダを組み合わせる必要がある。こうした構成にすると、例えば一部のファイルが抜けたり、ファイル名が間違っていたりすると、途端に再生できなくなってしまう。メディアの種類によっては、ファイル名に制限が加わることもあり、扱いは面倒だ。
この点、ファイルがたった一つであれば、コピーするにも保存するにも簡単だし、ユーザのミスによって一部のデータがなくなるといったこともない。パソコンで扱うにはずっと楽になる。まさに“画期的”な形式だ。
ただ、自分で楽しむだけでよいならともかく、いくら画期的でも普及しないことには話にならない。その点、プレイヤーソフトがフリーで配布されていることには大きな意味があるし、手軽にオーサリングが行えるよう、テンプレートが実用的である点もうれしい。あとはWindows以外での再生環境も揃えばいうことなし、といったところか。普及度合いによっては、パソコン上での動画の扱いに大きな変革をもたらすものであるだけに、今後の展開にも注目したい。
(天野 司)