スラム街で生まれ育った二人の少女と主人公の青年との出会いを描いた、全9章(話)立ての感動的な物語。身寄りも戸籍もなく、自らの力だけを頼りに、それでも強く気高く生きてきた少女の姿が見事に描かれている。これまで何不自由なく、自らの青い理想と信念を疑うこともなく生きてきた青年と少女とを対比させることで、少女の姿を深く浮き彫りにする演出もよい。篠芽のことを「ママ」と呼び慕う灯の存在も、物語に膨らみとアクセントを付け加えている。プレイ時間は3時間ほどの中編ノベルだが、読み応えは十分だ。
事件などを引き起こすために無理にほかの登場人物を交えたりすることなく、最後まで三人のキャラクタだけでドラマが展開されるのもうれしい。そのこともあり、非常にあとくちのよい作品に仕上がっている。
といって、物語は決して単調ではない。篠芽と晃弘、そして灯との間で繰り広げられるドラマの緊張と融和、希望と絶望などが目まぐるしく変化し、この先の物語がどうなるのか気になって、ついつい読みふけってしまう。ラストはおおむね予想された地点に着地するが、そこにいたるまでの展開は実に読み応えがある。ぜひ一読することをお勧めしたい。
(秋山 俊)