スラム街で生まれ育った二人の少女と青年との出会いからはじまる、感動的なビジュアルノベル。優れたシナリオと演出、そしてグラフィックが魅力的。家なしになったばかりの青年は、お化けビルで二人の少女に出会う
「朝焼けの謳」は、スラム街の中で「夢」を抱きながら、必死に生きる少女を描いたビジュアルノベル。青年と少女、そして少女のことを「ママ」と呼ぶ小さな女の子の三人が織り成す、切なくて心温まる物語を堪能できる。フルボイス付き。
物語の舞台は、メガロポリス・東京の一端を担う、未来への新しい可能性を秘めた都市――しかし、ほかの街に比べてどこか重苦しい雰囲気があり、いつしか「鉛街」と呼ばれるようになった。日本最後のスラム街も存在し、警察の手も届かないアウトローたちが跋扈する無法地帯と化していた。金や権力を持つ者は、自らの勝利を記念する旗のようにビルを建て、ビルの間に無数に張り巡らされた蜘蛛の巣のような路地には、すべてを失い、すべてに絶望した人間が辿り着き、住み着く。資本主義の縮図のような、人生の明暗をくっきりと分かつ街だった。
わずか二週間前に鉛街にやって来た青年が物語の主人公。ねぐらを見つける前に土砂降りに遭い、幽霊が住むと噂され、誰も近寄りたがらない廃ビル──通称「お化けビル」に退避したことがきっかけで、二人の少女に出会う。
老朽化した廃墟のようなビルの中で、三人の物語が紡がれてゆく
青年の名は「式守晃弘(しきもり・あきひろ)」。もともとは名家の跡取り息子で、年齢は19歳。名門大学の学生だったが、自身が引き起こしたとある事件により一族から追放され、社会的には死んだものとみなされていた。鉛街へは文字通り、身ひとつの状態でとたどり着く。いまだにお坊ちゃん気質が抜けず、強い正義感を持つお人好し。鉛街で生き抜くには適さない性格の持ち主だった。
少女のひとりは「蔓篠芽(かずら・しのめ)」。鉛街で生まれ育った17歳の美少女。スラム街で生き抜くしたたかな知恵と行動力を身につけている。外装も内装もボロボロで老朽化が進み、一見廃墟のような「お化けビル」に住み、小さな女の子を育てている。ルックスのよさを活かして水商売をしているが、酒には弱く、下ネタが好き。密かに大きな「夢」を抱いている。
もうひとりの「蔓灯(かずら・とも)」は、篠芽を「ママ」と呼ぶ9歳の少女。見かけは年齢以上に幼く、喋り方も幼い。小学校に通わず、滅多に外出することもない。お化けビルの中でぬいぐるみなどを相手に、一人遊びをして過ごすことが多い。
この三人が、お化けビルを主な舞台に物語を紡いでゆく。
自動送りを活用し、篠芽と灯のボイスを存分に堪能しよう
ゲームシステムには「吉里吉里2/KAG3」が採用されている。操作性もよく、ビジュアルノベルに求められる機能はひと通り備えている。
文章の送りは、【Enter】/スペースキー、マウスの左クリックで行う。画面右下には操作用のアイコンが並び、文章送り以外の操作は(基本的に)アイコンのクリックで行える。
篠芽と灯のセリフはすべてボイス付き。存分に楽しみたいならば、再生アイコンをクリックするか、【A】キーを押して自動送りをするのがお勧め。通常の送り操作だと、メッセージを送るのが面倒な上、状況によってはボイスが途切れてしまうことがある。自動送りを利用すると、アニメを見るような感覚で物語とボイスを堪能できる。もちろん、文章を消してイラストだけを鑑賞することも可能だ。
セーブ/ロードもアイコンのクリックで、章タイトル表示中以外はいつでも行うことが可能。セーブポイントは最大100ヵ所。画面表示は、ウィンドウまたはフルスクリーンから選択できる。