このようにいろいろな面を持つCat's Eye Viewシリーズだが、実際にはどのように作られているのだろうか。その背景とともに、作者であるかとう氏の素顔を覗き見るべくメールでのインタビューを行った。個々の作品のテーマや制作意図といった点についてはあえてうかがうことを避けているが、その点については、ぜひ読者のみなさん自身が作品を自分の目で見てほしいと思う。そして、感じたことがあれば感想として作者へフィードバックしていただきたい。
インタビューはQ&A形式で行った。記事構成の都合から多少手を加えた部分はあるものの、基本的には作者からいただいた回答をなるべく原文のまま掲載している。なお、文中[]で括った部分は筆者が挿入したものだ。
Cat's Eye Viewシリーズを制作しようとされたきっかけはなんですか?
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5年ほど前まで都内の美大予備校で講師をしていましたが、その時職場でMacintoshに出合い、自分でも1台購入したのがそもそものはじまりです。それまで油絵やデッサンなどアナログな制作がもっぱらでしたが、CGが現実の画材を見事にシミュレートしていること、自由に画像の修正や変更ができることなどに感心して、道具として使うようになりました。
また、当時インターネットが世間の話題になりはじめていましたが、一個人が世界中に向けて自由に発信できるという事実に驚いて、さっそく自分の作品をインターネットに流しはじめました。
猫については、現在のところ住宅事情が許さないので飼っていませんし、ふだん目にしているわけでもないのです。子供のころ、犬や猫を何匹も飼っていて、それらの姿態や仕草が頭の中に染みついており、見なくてもなんとなく描けるのです。[vol.4の]Etsuko's White Kuroは以前、姪のひとりが(私には姪ばかり5人もいます)病気で入院した折に、彼女の無聊を慰めるために描いてやった他愛もない紙芝居が原形です。この記憶がCat's Eye Viewシリーズを生み出すきっかけになりました。女性の肖像画などはこれまでの私の作品をCG化したものの一部です。
ムービー中のテキストやReadmeファイルが英文なのは、前述した通り一個人がインターネットを通じて世界中に発信できるという驚きがシリーズ制作の端緒にあったためです。
よくも悪くも英語はネットにおける標準語です。翻訳協力者か現れるまでは、とんちんかんな英語をせっせと書いて世界中で笑われていたものです。
今回フランス語版をリリースしましたが、協力者さえ現れれば使用人口の多いスペイン語版、中国語版もぜひ制作したいと思っています。もっとも、これまでのところ日本語版を作れという要望のメールはいただいていません(笑)。日本語版を作らないから反応がないのか、反応がないから作らないのか、というのは微妙な問題です。
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作品に使われている絵がとても印象的なのですが、どのようにして作られているのですか? 制作上難しい点や、特に注意を払うところについて教えてください。
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技法的にはいろいろ入り交じっています。パソコン上でPhotoshopやPainterを使って直接、描いたものもあれば、鉛筆デッサンをスキャンして画像処理したものもあります。大学で絵画技法や材料学の勉強をしていたせいもあり、ごちゃごちゃ試してみるのが好きなのでしょうか。そのわりに記録を取っておくほど几帳面ではないので、二度と再現できないことがあります(笑)。
よく画像ソフトなどのハウツー本に制作工程の緻密な解説などが載っていますが、まったく感心するばかりです。私の制作はすべて成り行きと気分なので。スキャンした画像がきれいだろうがなかろうが、あまり関係ないのです。ノウハウを質問されても困るのですが、強いて言えばおもしろい効果が出たと思った画像はすべて保存しておくことでしょうか。したがって、一枚の画像で百も二百も異なるパターンができます。もっともファイル名など適当なので、これらをあとで探し出すことは至難の業です(笑)。
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機材はどのようなものを使われているのですか?
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初めてパソコンに触れて5年経ちますが、いまどきの5年は大昔ですね。持っているマシンはすべて語るも恥ずかしいほどのスペックに成り下がってしまいました。G3化したPower Mac 8100/80AVがメインマシン。G3化が強く望まれるPowerBook 2400/180がいつもデイパックに入っているモバイルマシン。それから、Windowsの方は、いまどきそれはないだろというPentium/100MHzの載っているショップブランドのマシンです。これらはEthernetで家庭内LANを組んでいます。誰か、いらないマシンがあればください(笑)。
ソフトはPhotoshopとPainterを主に使い、Cat's Eye Viewシリーズの制作[ムービーの作成]にはMacromedia社のDirectorを使っています。Photoshopは履歴やマクロ機能がついて便利になりましたね。Painterのインタフェースはわかりにくくて好きじゃありませんが、画材のシミュレートに関してはこれ以外にありません。また、スクリプト機能はとても便利です。
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絵のだけでなく、BGMもすばらしいものがありますね。特にいくつかの作品で“Tamami Yamato”というお名前がクレジットされていますが、この方についてご紹介ください。
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大和たまみさんは、私がときどき画像処理の仕事をもらっているソフトウェア会社に勤めている方です。DTMのためにMacintoshを買いたいという相談を受けてから親しくなり、Cat's Eye Viewシリーズの制作に協力していただくようになりました。彼女はサックスを吹くジャズプレイヤーであり、ときどきグループでセッションやライブ活動などをなさっています。また熟練したエレクトーン奏者でもあります。彼女の協力がなければシリーズのこれまでの展開はなかったと思います。
ついでながら、テキストを英語へ翻訳してくださっているMary Jo Pichetteさんは日本在住のアメリカ人で、以前は中学校の英語教師、現在は都内で語学学校の講師をなさっています。また今回[Cat's Eye View vol.4 v2.0の]フランス語版の制作に協力していただいたRene Bousche氏はフランスで障害者学校の学長をなさっています。いずれも、インターネットに流したCat's Eye Viewシリーズを見て、制作協力を申し出てくださった方たちです。
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どうもありがとうございました。最後にファンならびに読者の方へのメッセージをお願いします。
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Mac OSにしろWindowsにしろOSはすべてアメリカに握られていて、出遅れた日本はパソコンの外箱や周辺機器を作ることくらいしかできません。ソフトウェアも多くはアメリカ製。これは新しい植民地主義かも(笑)。
ハードウェアの技術力ももちろん貴重なものですが、日本からインターナショナルなコンテンツを発信できなければちょっと悲しくなります。海外のアーカイブサイトを覗いても、日本製のオンラインソフトを見かけることはあまりありません。みなさんも一緒にインターネットで海外に何か発信してみましょう。英語は私みたいにヘタクソでも、意味さえ通じればまったく平気です(笑)。
非ネイティブの英語というのはたいていみんな適当なんですよ。いったん発信すると、海外からの反応に驚くことばかりです。Cat's Eye Viewシリーズをはじめて4年ほど経ちますが、アメリカやヨーロッパはもちろん、アフリカ、中南米、東ヨーロッパなど、延べ30ヵ国近くの国々の方々からメールをいただきました。いったん野に放った猫が知らない間にひとりで海外を旅していたのです。
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