ストローク図形の組み合わせではなく、1ドット1ドットを制御して画像を描画するペイントソフトは、主に写真画像の加工に向く“フォトレタッチ系”と、絵筆やペンといった現実に存在する画材を使って、画面上に手描きの絵を直接描ける“お絵描き系”とに分かれる。「MediBang Paint Pro」は、“お絵描き系”に分類されるソフトだ。“お絵描き系”ペイントソフトでは、用意された画材、筆先がいかにリアルなものであるかが重視されるが、こと「マンガ」の場合には、リアルであることだけが重要とは限らない。マンガに求められるのは、写真のような、あるいは絵画のようなリアル一辺倒だけでなく、マンガならではの独特のスタイルに従った「表現」だ。例えばモノクロ印刷を意識した極端なハイコントラストな表現であったり、スクリーントーンを使った段階的な陰影付けであった。リアルとは対極の表現になり、マンガにはマンガ用の描画機能や描画画材が必要になる。
そこで必要になるのがコミック専用のペイントソフト。世の中にはすでにいくつかの有名なコミック用ペイントソフトがあるが、「MediBang Paint Pro」は、この種のソフトとしてはめずらしくフリーソフトとして提供されている。特定分野の専用ソフトは得てして高価になりがちだが、それがフリーソフトであることに、まずは敬意を表したい。
さらに、Windows/Mac用のほか、Android用、iPad/iPhone用のアプリが提供されている点にも注目したい。本格的なイラスト・マンガ制作にはハードウェア性能に優れるパソコンがメインとなるだろうが、ちょっとした修正あるいは外出先での確認などでは、モバイル機器が活躍する機会も多い。「ハードウェア的に制限があるから」と諦めずに、それらの機器なりの編集機能を利用できるのもユーザのことを考えた結果だろう。ブラシやトーンパターンの追加などもクラウドを介して提供されるし、まさに「至れり尽くせり」といった印象だ。
フリーソフトなので、費用などを気にすることなく、誰でも試してみることができる。人によって絵心の有無などもあろうが、ぜひとも多くの方に一度試していただきたい。
(天野 司)