行き場のない少女の心が求めたものは? そして行き場を求めた少年の心が辿り着いた先は?──前・後編で二つの物語を描いたサウンド付きサイコミステリー風ノベル。行き場を失った少女は、生まれてはじめて心を許せる友人を得る
「アリスは鳥籠」は、行き場のない少女の心と行き場を求めた少年の心とを描いたサイコミステリー風ノベルゲーム。読者をグイグイと引き込む文章力と、サウンドや画像を巧みに利用した演出が秀逸。「これぞサウンドノベル」ともいうべき作品だ。
主人公は、母親からは「エーコ」と呼ばれ続ける16歳の少女「岡村詠美」。ボロアパートの中、詠美は毎朝、母親から首を絞められて目を覚ます。詠美の母親は大学生のころ、夜の公園で誰ともわからない相手に暴行された挙句、詠美を産んだ。母親の口癖は「あんたなんか産むんじゃなかったよ!」。詠美のことをやさしくかわいがってくれたのは、いまは亡き祖母だった。学校でもひとりぼっちで友だちもなく、周囲からは「石の女」とあだ名されていた……。
そんな詠美が、ひとりの男を好きになる。だがその相手は母親の恋人で、十何人目かの再婚相手候補だった。彼との関係に溺れ、母親を手に掛けてしまう詠美……。しかし、褒めてもらえると思った最愛の男から突き放され、詠美は死ぬことを決意する。電車に飛び込もうとする詠美を止めたのは、中学生にしか見えないほど小柄な家出少女「麻里子」だった……。
前編と後編で異なる物語が描かれる
主人公の「岡村詠美」は16歳の高校二年生。母親からは「A子」と名づけられるところだったが、かわいそうに思った祖母の意見で「詠美(A美)」と名づけられた。13歳のときに母親に引き取られるまでは、田舎で祖母と暮らしていた。祖母の趣味で女の子らしいひらひらした服を着せられていた影響で、いまでもロリータファッションが基本になっている。
「上宮麻里子」は、詠美が電車のホームで出会った少女。小柄で痩せており、中学生のようにも見えるが、詠子と同じ16歳の高校二年生。黒を基調としたファッションに身を包んでいる。家出中のため、体には不釣り合いな大きなスーツケースを所持し、左手首に巻かれた黒いリストバンドの下にはリストカットの痕が無数にある。詠美のことを「エイミー」と呼び、彼女のはじめての友だちになる。
「足立尚人」は高校二年生の男子生徒。勉強もスポーツも得意ではなく、体が弱くて学校を休みがち。小学校、中学校、高校を通じてクラスでは存在感がない。高二の進級と同時に転校してきた中林さんに心を惹かれている。幼稚園からの幼馴染み「三津木崇志」「高野潤」とはいまでも仲がよい。