数学、物理学、化学など、学術分野では「一般的なワープロでは作成できないタイプの文書」を作成しなければならない機会は多い。数学であれば微分記号や積分記号、あるいはもっと簡単なところでルート記号や分数などでさえ、以前はワープロでは作成しづらかった。数式は、最近では「数式エディタ」を搭載することが増えてきたため、問題は解消しつつあるが、そのほかの学術分野では、手書きに頼るか、汎用のドローソフトを使って作図しなければならないことも多い。「ACD/ChemSketch Freeware」は、こうした学術部門のうち、化学分野において必須となる「構造式」を描くための専用ソフトだ。分子構造の場合、英字と数字、それに直線さえ描ければ表現できるため、効率の良し悪しを考えなければ、汎用ソフトを使ってもそれなりには対応できる。しかし、専用ソフトと比べてしまうと、効率の違いは歴然だ。
実際に使ってみればすぐにわかるが、「ACD/ChemSketch Freeware」における分子構造の作成は、ドローソフトの「作図」とはまったく概念が違う。分子同士、原子同士を結びつけるだけで、結合可能な原子同士が自動的かつ適切に結び合ってくれる。いわば「ソフト自身が化学反応の基本をわきまえている」といってよい。この仕組みだけで、分子構造を作図するための労力は圧倒的に下がる。
内蔵されたドロー機能も強力だ。この機能自体は一般的なドローソフトと大きく変わるものではないが、テンプレートとして用意されたさまざまな実験器具の図形は、特に学校などで使う教材作りなどには便利だろう。英語版のソフトではあるが、(化学の知識があれば)使い方はそう難しいものでもない。興味のある方は、ぜひとも試してみていただきたい。
(天野 司)