選択肢などの要素を排除している分、作り込まれたシナリオが楽しめるノベルゲーム。真のエンディングまでたどり着くのにだいたい2時間程度だが、短い中に殺人、暴行、同性愛といったさまざまな要素が詰まっている。“ミステリー”というジャンルではくくれないスケールの大きな物語で、最初は謳い文句の“居酒屋セカイ系ミステリノベル”にピンと来なかったが、プレイするうちに納得できた。ゲームにあるのは、シリアスなシーンばかりではない。個人的に「築地」の“食”に対する並々ならぬ思いが非常に微笑ましく、やきとんの部位に対する豆知識や、鍋に対する執着心(?)は、読んでいてとてもおもしろかった。また、難しい単語を持ち出したり、自分の表現したいモノにこだわりを持つ「法月」の言動は、自分の大学時代を思い出して、懐かしい気分にもなった。徐々に物語の真相が明らかになってゆく過程や、衝撃的なラストに目が行きがちだが、等身大の大学生の心の機微など、細やかな部分で丁寧に作られていると感じられる点が多々あった。
「居酒屋を舞台にしたミステリー」と先入観を持って読むと、足下をすくわれるほどの驚愕に襲われるだろう。読み進める中で少々わかりづらい個所もあったが、エンディングですべてが繋がったときの爽快感は格別。ミステリーに限らず、アドベンチャーを好む人は、ぜひ枠にとらわれない“居酒屋セカイ系”の物語を読んでみてほしい。
(早川 陽子)