ひとくちに「電卓ソフト」といっても、いろいろなタイプがあることがおわかりいただけただろうか。「計算」という単純なことをするソフトだけに、「どんなシチュエーションで」「どんな使い方を」といった点に作者の工夫やセンスが感じられて、なかなかおもしろいと思う。では、駆け足になるが、今回取り上げたソフトについて、使用感をふくめてまとめてみたい。
■鍋電卓
一見すると、ごくオーソドックスな電卓ソフトにも見えるが、最大の特徴はスクリプトが書けるプログラミング電卓であるというところ。数値だけを入れ替えて同じ計算を何回もしたいというのはよくあること。こうしたケースこそ、「鍋電卓」の本領が発揮される。「プログラムなんか書いたことがない」という人には敷居は決して低くはないが、言語はBASICで、しかもソフトの性格としてさほど難しい処理をさせるわけでもないので、ちょっと気合いを入れてもらえば、できない相談ではないと思う。というより、スクリプトの便利さを実感するために、この機会にチャレンジしてみるのもいいのではないだろうか。
■HiyoCalc
電卓機能はオーソドックスなもの(デザインはとてもオーソドックスとはいえないが)。電卓ソフト、しかもこのタイプの電卓でやりたいのは「ちょっとした計算」ということになるのだが、「HiyoCalc」は、計算のほかにも「ちょっとしたことをしたいとき」に便利な機能を集めたものになっている。表計算ソフトを起動するまでもない表計算、ワープロを起動させるまでもないメモといった具合だ。とはいえ、もしもの「ちょっとしたとき」のために常駐させておくのももったいない話で、ならばというわけで電卓などを使わないときにはカレンダーと時計にもなる。無駄がないというか、何かにつけて便利なソフトといえる。ただ、電卓機能での入力にマウスしか使えないのは、ややまどろっこしい。キーボードからの入力ができるようになれば、なおよいと思う。
■めも電卓
見た目はだんだん電卓から離れてくる。特に変数リスト/テンキーを非表示にしてしまえば、エディタそのものにしか見えない。数式を入力できる電卓ソフトの利点は、複数の演算子を使ったり括弧を使ったりする計算が一発でできること。ちょっとした計算であってもその程度のことはしたいもので、これは大変に便利である。変数を宣言したり関数を使ったりできるのもうれしいし、用意されている関数も豊富だ。さらにユーザ定義関数も使えるので、「ちょっとしたこと」というより「相当なこと」ができる電卓ソフトである。計算機能をOFFにすればまったくのテキストエディタになり、計算の履歴をファイルに出力したり、履歴をもとにして文書を作ることもできる。作業の中から計算だけを抜き出す電卓というよりも、計算をともなう文書作りをまとめてやってしまえる、使いでのあるソフトだ。
■SCAP for Windows
「めも電卓」が電卓から出発してテキストエディタ方向に拡張されたソフトだとすると、「SCAP for Windows」は、普段使っているテキストエディタ/ワープロの中に電卓機能を持ち込んだものといえる。筆者の個人的な事情に即していえば、このソフトがいちばんありがたいものだった。仕事上、テキストエディタに向かっている時間が最も多く、「ちょっとした計算」がしたくなるのも、テキストエディタでの作業中であることが多いからだ。テキストエディタ上でまったくシームレスに、「SCAP for Windows」の存在を意識することもなく計算ができてしまうのが何よりのメリットだが、キー定義をWindows標準ではなく、Mifes風やVz風に換えている人には、最初だけだがちょっと面倒かもしれない。とはいえ、SCAP.INIの編集もわかりにくいものではない。今回取り上げたソフトの中でも、一番のお気に入り&お勧めである。
■FlipCal
コンパクトでちょっとオシャレなデザインの数式入力電卓だ。妙な表現になるが、今回のソフトの中では最も“理系がかった”ソフトといっていいかもしれない。テキストとの連携は考えられていないが、拡張モジュールで関数を増やしていけること、変数の保護といった機能を持つこと、2進法、8進法、16進法での入力、出力が可能なこと──あたりがその印象のもとになっているのだろう。では、文系の人間にとっては扱いにくいのかといえば、まったくそんなことはない。というより、ソフトそのものが非常にスマートにできているので、大変に使いやすいソフトである。シンプルな数式入力電卓としても、拡張性の高い本格的な関数電卓としても使える、優れたソフトだと思う。単位変換機能も便利だ。
■M Changer
単位変換に特化したソフトで、操作はシンプルで使いやすい。とにかく驚くべきは変換可能な単位の数が多いこと、そしてその多様なことだ。「ありとあらゆる」と言ってしまっては大げさかもしれないが、実際にそんな表現が頭に浮かんでくるような多彩さである。単位と呼んでいいのかわからないが、需要は確実にある「年号」の変換も可能なように、その実用性については疑問の余地はないだろう。が、それだけでなく、こんな単位があったのかという、純粋に知識を得られることでもおもしろいソフトだと感じた。
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どんなタイプのソフトが向いているかは人それぞれだが、電卓ソフトは身近に置いておいて、決して損になるものではない。それどころか誰もが身近に置いてほしい種類のソフトである。いずれも導入の簡単なソフトばかりなので、ぜひとも自分にあった電卓ソフトを見つけていただきたい。