富士通の開発によるNICOLA配列、あるいは親指シフト入力方式は、登場時から日本語入力の効率のよさによって注目を集めてきた。筆者は普段、ローマ字入力だが、頻繁に日本語入力を行うという職業柄、多少なりとも昔から興味を持っていた。ただし、この方式、普及の障害となっているのは、特殊なキーボードを必要とする点だろう。一般的なキーボードのスペースキーの位置に二つに分かれたシフトキーが存在し、さらにその手前には【無変換】/【変換】キーがあるという親指シフトキーボードの配置は、利用するには決して安くはない専用のキーボードが必須で、気軽に試してみるのは困難だった。
「やまぶきR」は、このNICOLA配列と親指シフト入力方式を一般的なキーボードでも利用できるようにするためのソフトだ。もちろん、実際には存在しないキーはソフトウェアでも実現できないが、幸い日本語キーボードは【変換】キーや【無変換】キーなど、英語キーボードには存在しないキーのおかげで、スペースバーが極端に短い。「これらの割り当てを変更すれば──完全に同じではないものの──親指シフトキーボードに近い環境が実現できるだろう」という発想である。
上述したようにローマ字入力たる筆者は、残念ながら「やまぶきR」の親指シフト入力の使い勝手については正しく評価することができない(そもそも本来の親指シフトキーボードに触れた経験もほとんどない)。ただ、特にコストをかけることなく、親指シフトの使い勝手を試せるのはよいアイデアだと思う。「とりあえず(完全に同じ配列ではないものの)親指シフトを試してみて、実際に使いやすければキーボードの購入を検討してみる」という手が使える。
親指シフトに慣れている方はもちろん、まだ使ったことがない方も手軽に親指シフトを体験できるソフトとして試してみてはいかがだろうか。
(天野 司)