想定プレイ時間が一時間ほどの掌編ビジュアルノベル。形式上の主人公は大学生の「秋孝」だが、実質的な主人公は中学三年生の「夏帆」という、変則的な構成の作品となっている。それもそのはず、あとがきによれば、もともとは夏帆の成長を描いた四つの物語からなる短編集的な作品として構想されていたものとのこと。「優しい心と空っぽの言葉」は、その四つの物語のうちの三番目にあたる。比較的短いストーリーの中に、夏帆というおませで活発な、その上強い信念を持った少女の姿がいきいきと描かれ、ちょっと切ない心情もきちんと描き込まれている。なかなかに読ませる作品だ。筆者などは読みながら思わず「いいぞ、このまま姉から秋孝を奪ってしまえ」と応援してしまったほど。
ただ最初に読んだとき、実にいきいきと描かれている夏帆に比べて、姉の「美帆」の存在感が非常に薄く、秋孝のキャラクタも弱く感じられた。物語の最後が尻つぼみに感じられたのも惜しいと思った。
あとがきを読むことでそのあたりの疑問は解消したものの、できることならば四つの物語がすべて揃った完全版を読んでみたい。クリア後にタイトルから読むことができる「おまけシナリオ」で、一番目の物語の内容も垣間見ることができたのはうれしかった。
(秋山 俊)