念のために断っておくが、「GearTypeCalc」はパソコンで動作する計算機ソフトではあるが、決して“計算を目的とした実用ソフト”というわけではない。もちろん誤った答えを出すわけでもないし、おかしな動作をするわけでもないが、純粋に「計算結果」だけを目的とするのであれば、加減乗除しか行えない上、難しい操作が必要で、手間も時間もかかるこのソフトを利用する意味はあまりない。では、いったい何に使うのか。ソフト作者(あんやんさん)も書いているように「計算の仕組みを説明するための教材に最適」なのだ。例えば掛け算。整数同士の掛け算は、いうまでもなく足し算の繰り返しだが、この繰り返しは歯車式計算機であれば、ハンドルを回す回数で行う。つまり、ハンドルを一度回すごとに足し算が行われるのを、自分の手で操作し、自分の目で見ながら理解することができる。
複数桁同士の掛け算は、筆算で行う場合、桁ずらしを行いながら、一桁ごとに掛け算をしてゆく。これも歯車式計算機であれば、キャレージを一桁ごとずらしながら、各桁の数字の分だけハンドルを回すという方法で、手順を自然に理解できる。
加減乗除の計算方法を覚えるという意味で、機械をいじって学習するのはおそらくかなり効果があるだろう。しかし、歯車式計算機などを操作した経験がある人はおろか、実物を目にしたことがある人もそうそういるものではない。それをパソコンのソフトウェアで再現するというのはなかなかおもしろいアイデアだ。
実は筆者は、大学時代にこうした機械式計算機を何度か操作したことがあるのだが、その記憶をたどってみると、雰囲気の再現性はなかなかのものだ。学習用途として使うのもよいだろうし、あるいは純粋に計算機メカに関心のある人が「どんなものか」と使ってみるのもよいだろう。興味の湧かれた方は、ぜひ一度、使ってみていただきたい。
(天野 司)