開発の経緯
以前、「地震検索システム EQLIST」のソフトレビューでも触れたのですが、震源分布図を描くために使っていた日本地図は、現在のように数値地図が利用できる時代ではなかったので、子どもの学習雑誌の付録にあった日本全図をデジタイザで数値化したものでした。これは、日本全域を表すにはまずまずですが、拡大すると精度の悪いものでした。これを何とかしたいと思い、国土地理院の数値地図を手に入れてみると、幸いテキストファイルでしたから、そのデータを適当に判断して、本州、九州、四国といった陸地部と多くの島々、さらに各県の境界線を一筆書きで閉じるようなデータを用意しました。これは当時、塗りつぶしコマンドというものを知らず、多角形を描くコマンドしか知らなかったためで、細切れの線データを一筆書きの線データに変換することは結構面倒でした。このようにして、日本全域から任意の範囲まで自由に拡大・縮小でき、また、県別塗り分け機能を持つ全国版白地図作成ソフト「MapMap」を作成しました。このソフトを2001年5月に公開したところ、多くの方々に受け入れていただくことができました。さらに、「市区町村境界を表示するような詳細地図はできないか」というお問い合わせが数多くあり、また私も、次のステップとして県域を単位として市区町村境界を表すことのできる白地図作成ソフトが必要だと考えていましたから、2002年7月に「白地図 KenMap」の作成に着手しました。開発に苦労した点
「白地図 KenMap」で使用した国土地理院の数値地図200000(海岸線・行政界)は、日本全域を経度方向に1度ごと、緯度方向に40分ごとのメッシュに区切り、各メッシュの地図データが1個のテキストファイルに納められており、全部で206個のファイルからなっています。この中に海岸線、湖沼、県境界、市町村境界などを表す約千個の細切れの線データが納められています。地図の座標データは、そのメッシュ内の左下隅を原点(0,0)とし、右上隅を(10000,10000)とする局所座標系で表されていますので、これを全体座標系に変換すればよいことはすぐわかりましたが、一つのメッシュ内にはいくつかの県のデータが混じっていますから、これを1本1本県別のデータに分けることが必要になりました。そのために、ある県の海岸線のデータがどのファイルの何番目の線データであるか、市町村境界線は何番目の線データであるかということを一つひとつの線について調べるソフトをまず作成しました。図は、「岡山及丸亀」のメッシュを表示しているところですが、これでどのファイルの何番目の線データが何県の何を表すかを判断して、県別に海岸線、県境界線、市町村境界線、市町村名のデータ番号を調べ、今度はそれをもとに、一つの県のデータファイルを作成するプログラムを作成しました。
こうして、全都道府県別のデータを作成するのに約3週間かかり、ようやく2002年8月1日にVer.1.0として正式にリリースすることができました。なお、この地図線を識別するソフトは、現在進行中の市町村合併で新旧の市町村境界線を更新するのに大いに役立っています。Ver.1.0では、表示範囲の選択と、自由な拡大・縮小・移動といった基本機能だけを持ったものですが、高品位の印刷ができるように、「MapMap」と同様に、画像サイズを大きくしてクリップボードへコピーするという機能は最初から用意しました。しかし、この時点では、まだ、市町村別塗り分け機能はありませんでした。使い方の中で、他のグラフィックソフトにコピー&ペーストして、そちらでやれば十分ということで、塗り分け機能を将来的にも組み込むことはないと明言しているのもおもしろいですね。
それ以降は思いつくままに、あれもこれもと機能の拡充に努めてきました。いまでは、自分でも何ができるか全部を把握できなくなっているほどです。更新履歴を振り返ってみますと、「KenMap」のバージョンアップにともなって追加した主な機能は次の通りです。
- Ver.2 2002/10/01:クリック位置の経緯度表示、2点間の距離測定機能、任意の8色までの市区町村別塗り分け機能
- Ver.3 2003/01/01:ラベル表示機能、市町村合併にともなう新旧境界や新旧市町村名に対応、パターンによる塗り分け機能
- Ver.4 2003/07/01:地図画像編集過程の保存・呼び出し機能
- Ver.5 2003/10/01:市区町村名の読みがな表示機能
- Ver.6 2004/01/01:記号表示機能、地図線作成機能、地図画像保存形式をGIFからPNGに変更
- Ver.7 2004/05/01:マウスドラッグによる地図範囲設定機能、任意経路の距離測定機能、閉領域の面積測定機能/国土地理院地図閲覧サービス接続機能
- Ver.8 山名および島名表示機能、都道府県庁、市役所、町村役場情報表示機能
今後の予定
平成の大合併ということで、大規模な市町村合併が現在進行中であり、これに対応していくことは結構面倒です。しかし、地図ソフトは正確でなければ無意味です。データ更新については、そのつどホームページでお知らせいたします。問題点は、旧長野県山口村のような越県合併で県境界が変更されたり、静岡市のように政令指定都市に移行して、区政が敷かれるような場合です。また、京都府京北町のように京都市右京区に編入されるような場合もあります。このような例外的な合併に対して、従来の市町村境界と同じように扱うことができませんので、新旧の県境界とか、区境界とかの区別が必要になり、これをどうするかまだ解決しておりませんので、早急に対処しなければと考えております。
「KenMap」を通して感じたこと
県域程度の白地図を簡単に作れたらということで開発したソフトですが、いろいろの機能を付加していくうちに、地図というものに関係づけられた多くの情報があり、そうした情報がインターネットを通して容易に手に入れることができるということを実感しました。本ソフトが実現できたのは、まさに、そうした情報化社会の恩恵の賜です。
「こういうことができたらおもしろいな」というアイデアが浮かんでも、日本全国についてそのデータを用意することは容易ではありません。例えば、Ver.8で島名表示機能を設けましたが、「KenMap」では無人島のような小さな島も表示されますから、これらの名前をいちいち調べてデータを作成するということは大変な作業になります。ホームページでどなたかデータを作成してくれませんかとお願いしたところ、早速、データを作成して送ってくださった方がありました。また、市町村合併の官報告示がでれば、いち早く連絡してくださる方もおられます。一つのソフトが、このようにお使いいただいている方々のご支援のもとにできあがっていくということはすてきなことだと感じました。
本ソフトの作成目的の一つには、Webページ上で自由に地図を表現したいということで、これまで、多数の方々に利用していただいております。また、学校の先生方には学習用教材の作成にも使用していただいておりますが、弱視の児童のために、大きな文字を使った学習用地図を作っているというボランティアの方からメールをいただいたことがあります。このようなソフトでも、単に、趣味の世界に止まらず、ささやかながらも何らかの形で社会のお役に立つこともあるんだとうれしくなりました。そのほか、多くの方々から、貴重なご意見やご指摘を受け、本ソフトが単に地図を描くというだけでなく、さまざまな地図情報を入手するためのソフトとして成長いたしました。ここにあらためて御礼申し上げます。
関連ソフト
「KenMap」に関連していくつかのソフトを作成しました。国土地理院の地図閲覧サービスに接続すると、指定した地点の経緯度を知ることができます。これを利用して、道路や鉄道などの経路の緯度経度を連続的に取り出して、「KenMap」用の地図線データファイルを作成することができるw2kenmap.exeを作成しました。これを使用すると、手間はかかりますが、1/25,000の地図にもとづいた正確な地図線を作って、「KenMap」で表示することができます。また、防災科学技術研究所のホームページから、地震観測網K-Net/KiK-netで記録されたの各地の最大地震加速度を入手することができます。このデータを使用して、大きな地震が起こったときに、最大加速度分布を地図上にカラーグラデーションで表示するKenMap8e.exeを作成しました。いずれも、ホームページから入手することができますので、お試しください。
(鎌田 輝男)