●フリーソフトの著作権
フリーソフトに限らず、すべてのコンピュータソフトは、著作権法上、
文章や音楽、絵画などと同じく著作物の一種として保護されています。
(「著作権法」第10条第1項第9号)著作者(ソフトの作者)は日本の著作権法上、下に示すように
「著作人格権」と「著作権」に大別される権利を持っています。
(紛らわしいため、ここでは著作権法上での「著作権」を「著作財産権」と言い換えます)※このページは『PACK for WIN 1997年前期版』『PACK for MAC 1997年前期版』
掲載記事を元に、一部加筆・訂正したものです。著作権法上で規定される著作者の権利
著作人格権 公表権(第18条) 氏名表示権(第19条) 同一性保持権(第20条) 著作権
(著作財産権)複製権(第21条) 上演権及び演奏権(第22条) 放送権、有線送信権等(第23条) 口述権(第24条) 展示権(第25条) 上映及び頒布権(第26条) 貸与権(第26条の2) 翻訳権、翻案権等(第27条) 二次的著作物の利用に関する
原著作者の権利(第28条)
《1.著作者人格権とは何か》
著作者人格権は著者の人格を守るためのもので、作品を公表する権利(公表権)、自分の本名または変名(ペンネーム)を著作者の名前として表示する(あるいは表示しない)権利(氏名表示権)、作品のタイトルや内容が作者の了解を得ることなく変更されない権利(同一性保持権)の三つの権利が含まれます。
著作者人格権の大きな特徴は、この権利を他人に与えることができないことです。法律の文章をそのまま引用すると「著作者人格権は、著作者の一身に専属し、譲渡することができない」(第59条)となっています。一方の著作財産権が、「その全部又は一部を譲渡することができる」(第61条)となっているのと対照的です。
「フリーソフトとシェアウェアの取り扱い」のPDSの説明で、「日本の法律では(中略)著作権を放棄することはできません」と書きましたが、実はこの著作者人格権が譲渡不可であることがその理由です。
個人的にフリーソフトや登録したシェアウェアを使っている限り、著作者人格権上で問題になることはまずありません。気を付けたいのは、再配布を行うときや、プログラムの一部をあなたが修正し、それを配布しようとするときです。
再配布をするときは、公表権というものが作者にありますから、再配布そのものを作者が許可しているかどうかをまず添付ドキュメントで確認し、元の作者から明確に許可されていなければ、問い合わせて許可を得る必要があります。
もう一つ気を付けなければならないのは、元のアーカイブに入っていたファイル構成を勝手に変更してはならないということです。これは、作者の同一性保持権を侵害することになるので、作者から許可を得なければできません。
プログラムを変更して別バージョンを作ったときは、変更したものを配布することが許されているかどうかも確認してください。これも作者の同一性保持権の面で問題となります。氏名表示権という観点から、変更点などを書いたドキュメントにオリジナルの作者の名前も記入すべきです。またプログラム実行時にCopyrightを表示するのであれば、オリジナル作者の名前も表示すべきです。
《2.著作財産権とは何か》
著作財産権は、主に金銭的な面での利益を明確にしています。
例えば小説家が小説を書いた場合、出版社との契約で「複製権」を与えれば、本の販売にともない対価(通常は印税)を得ることができます。同じ小説でも舞台で上演するときは「上演権」となりますし、映画のときは「上映及び頒布権」、翻訳されるときは「翻訳権、翻案権等」といった具合です。コンピュータソフトの場合は、主に「複製権」「貸与権」「翻訳権、翻案権等」「二次的著作物の利用に関する原著作者の権利」などが関係してきます。ゲームソフトでは、画面に表示される映像や音から「上映及び頒布権」を裁判で争った例もあります。フリーソフトの特徴は、作者が著作財産権の多くを無償で利用者に提供している点です。これも個人的に使っている限り、問題になることはまずないはずです。シェアウェアの場合も、登録料を正規に支払って使っている限り、問題になるとは思えません。
著作財産権から見たときも、気を付けたいのは再配布を行うときや、プログラムの一部をあなたが修正し、それを配布しようとするときです。多くの作者は、自作ソフトの複製や再配布を認めていますが、再配布に条件を付けている作者も少なくありません。作者の付けた条件を無視して再配布すると、複製権を侵害することになってしまいます。またフリーソフトだからといって、勝手にその一部を使って他のソフト(二次的著作物)を作ることはできません。オリジナルの作者は、二次的著作物に関して、二次的著作物の作者と同等の権利を有することになっています(二次的著作物の利用に関する原著作者の権利)。
二次的著作物については、その判断が特に難しいとされています。絵画や小説と異なり、プログラムの一部が偶然同じ内容になってしまうことは少なくないからです。同一の目的を持ったプログラムを普遍的な方法で作成しようとした場合、わざと似せようと思っていなくても、プログラムの中身は、どうしても似た部分が生じてきます。言わば「普遍的な手法によって作成された部品」について、それを著作物と認めるかどうかの判断はとても難しいのです。しかし、だからと言って、他人が作成した部品を勝手に使っていいはずもありません。「参考にする」と「流用する」との区別は、法以前にモラルの問題でしょう。「参考にさせていただきました。ありがとう」と互いに気楽に声をかけられるような状態を維持していきたいものです。
ソフトによっては最初から「どんな変更を加えようと、また変更したものを再配布しようと販売しようと勝手にしてよい」としているものがあります。PDSがそうです。PDSは完全に公共のものとして著作権を放棄しているソフトです。日本では前述の「著作者人格権」は放棄することができないので、本来の意味でのPDSは存在しません。しかし、作者がPDSと同等にあつかわれることを望んでいる場合もあります。この場合は、作者の意図を尊重するという意味で、本書ではPDSとして分類しています。ユーザーとしても、PDSとして扱って支障はないでしょう。しかし、「実際には作者の著作権は生きている」ということは覚えておきましょう。GPL扱いのソフトも、どのように扱ってもよいことになっているので、これをもとに商品を作ることも可能です。ただ、GPL扱いのソフトをもとに改変したものを作った場合、その再配布を妨げてはならないという規定があります。またユーザーから改変を求められた場合には、ソースコードも提供しなければなりません。
《3.著作権が分からないときはどうしたらよいか?》
法律の話はどうしても堅くなってしまいますが、フリーソフトやシェアウェアは原則として非常に自由度の高いソフトです。ソフトの改良が異なった作者によって行われるなど、市販ソフトではまず許可が出ないことも可能になっているのは、結局のところ、作者の多くが、使用者のモラルを信じて、また使用者全体の利益を優先させることを考えて、ソフトを公開しているからと言えるでしょう。
要は、「ソフトウェアが本や絵や音楽と同じく著作物であり、作者には著作権があるということを忘れずに使いましょう」「作者の意図を無視した使い方はダメですよ」ということです。もし取り扱い上で疑問が生じたときは、素直に作者に相談してみることです。良識を持ってあつかってさえいれば、ほとんどのトラブルは避けられるはずです。