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ベクターソフトニュース - 1999.11.20
風  Ver.2.0
「超多段シフト」で漢字のタッチタイピングを可能にする日本語入力システム
Windows 98/95/NT シェアウェア
「風」の動作画面
■読みを入力し変換キーを押すと仮想鍵盤が現れる。対応するキーを押して入力する

Windows用の日本語入力システム(IME)だが、既存のかな漢字変換とはまったく異なる「超多段シフト方式」というアプローチを採用しているのが特徴。読みを入力して漢字に変換するという点では他のIMEと同じだが、一般的に使われる複合連文節変換と違って、漢字を一文字ずつ変換する。

「風」では読みを入力して変換キーを押すと、入力位置のすぐ上に「仮想鍵盤」が現れる。これは、その読みを持つ文字の集まりで、キーボードと同じ配列の上に同じ読みを持つ漢字がずらりと並んでいる。ユーザは仮想鍵盤上で入力したい漢字を探し、その位置に対応するキーをキーボードで押すと文字が入力されるという仕組みだ。ローマ字入力を使って「風」という漢字を入力する場合、具体的な手順は次のようになる。
  1. キーボードで"k""a""z""e"とタイプする
  2. 入力位置に「かぜ」とひらがなが表示される
  3. 変換用キー(初期設定では「空白」(スペース)キー)を押すと仮想鍵盤が現れる
  4. 仮想鍵盤上でアルファベットの「F」の位置に「風」という字がある
  5. キーボードで【F】キーを押すと「風」という文字が入力される
以上が基本的な漢字の入力方法。ひらがなやカタカナについては、一般的なIMEと同じ感覚で入力すればよい。

ところで「風」という漢字には「ふう」という読みもある。そこで同様に"h""u""u"と入力して変換してみよう。「かぜ」の場合は同じ読みの語はほかになかったため仮想鍵盤には「風」ひとつしか出てこなかったが、「ふう」で入力すると今度はいくつかの候補が出てくる。しかし、よく見ると「風」の字はやはり「F」の場所にあるのがわかる。このようにどんな読みであれ、同じ文字は必ず同じ位置に現れるので、慣れていくにしたがって漢字のタッチタイピングが可能になるというわけだ。

慣れないうちは仮想鍵盤上で文字を探すのに多少時間がかかるが、使用頻度の高い文字はほぼ両手の人差し指と中指でカバーできる範囲にレイアウトされているため、日常的に使っているうちにマスターできるだろう。辞書の学習という概念がないから文字の位置は常に同じで動くことはない。したがって、どのキーを何回叩けば必要な文字が出てくるかは使っているうちに自然と指が覚える。また、同音の文字がたくさんあって仮想鍵盤に表示しきれない場合は、変換キーを押していくと別の候補が現れるようになっている(これを「風」では「超多段シフト方式」と呼ぶ)。もちろん候補が現れる順序も固定されている。なお、同音の文字が多い場合は、いったん変換を行ったあと【:】(コロン)を入力し、続けて別の読みを入力することで候補を絞り込めるようになっている。

実際の使用に際しては多少難しい面もある。頭の中に思い浮かべた語句通りにタイプしたのでは、望みの漢字が出ないこともあるからだ。音便についてはある程度許容してくれるようだが、人名・地名のような特殊な読み方をさせる固有名詞などは特に注意が必要となる。またカタカナとひらがなが混在した文も変換できないので、必ずカタカナ部分とひらがな部分とは分けて文字の入力・確定を行わなければならない。

辞書は、文字の読みと仮想鍵盤上の位置が入った2本のファイルからなるが、熟語や慣用表現、用例などを収録する必要がないのでファイルサイズは非常に小さい(アンインストーラなどまで含めた全ファイルの合計でも約319KB)。単漢字変換のため、単語登録の機能は必要ない。また、仮想鍵盤の配置に混乱をきたすことのないようにという配慮からか、外字登録機能は用意されていない。

カスタマイズ機能では、変換キーその他のキー割り当て、さらに仮想鍵盤のフォントや色などの変更が可能だ。また、入力方法としてローマ字のほかにJISカナ、OASYS(富士通のワープロ「OASYS」シリーズで使われている親指シフト)、花の計4方式を選べる。このうち「花」は、かなのタッチタイピングを効率的に行えるように考えられた「中指シフト」という「風」独自の方式だ。英字の入力についても通常のQWERTY配列のほかにDvorak配列にも切り替えられるようになっている。

reviewer's EYE 記憶も曖昧になるほど昔に(およそ10年くらいか?)雑誌で存在を知って以来、興味を持っていた日本語入力システムだ。簡単にいえば、ATOKが頑張って「入れたてのお茶」と変換したのに、「そこはやっぱ『淹れたて』でしょう」と、思わずTVの前でツッコミ入れてしまうような人のためのIMEである。

もう少しマジメに考察すると、このソフトには「IMEの辞書よりも人間の方が賢くて柔軟性が高い」という大前提がある。したがって、使いこなすにはユーザ側にいくつかの条件がある。少し具体的に説明してみると、
  • 条件1:タッチタイピングができること──これはいうまでもないだろう
  • 条件2:日本語が得意なこと──「『たいへいよう』の『たい』って点があるんだっけ?」などといちいち考えなければならないようでは使いこなしはおぼつかない。また、送りがなの使い方、言い換えると語幹と語尾の関係を正しく認識していないと、見当はずれの読みを入力し、出てこない文字を求めて探し回るはめになる
また、この二つよりはやや重要度が減るものの、もうひとつ条件があると考える。実際にローマ字入力で「風」を使ってみて、タッチ数の割に入力が進まないという印象を受けた。これは複合連文節変換ならまとめて入力できる文も、「風」の場合、語幹を漢字で打ち、さらに送りがなをあらためて打たなければならないところから来ているようだ。この印象から推測するに、もともと打鍵数が多いローマ字入力では「風」を本当に使いこなせないのではないかと思える。したがって、1タッチで1文字入力できるかな入力で、なおかつタッチタイピングに適した「花」の中指シフトまたはOASYSの親指シフトがあって初めて「風」の設計思想が活きるのではないだろうか。

以上をまとめると、タッチタイピングができて、IMEの辞書からお仕着せの表現を選ぶだけというスタイルに不満を持っている人のためのソフトといえるのではないかと思う。逆に、「風」に向いていないユーザも簡単にイメージできる。人名・地名などの固有名詞の入力が多く、単語登録が欠かせない人(顔文字を多用する人も含めていいだろう)、漢字が苦手でとりあえずIMEまかせで出てくることばを選びたいという人は、絶対に既存のIMEを選ぶべきだ。

習熟には時間がかかるので、上記のユーザイメージに当てはまる人でも既存のIMEを捨てて乗り換えるだけのメリットがあるかは微妙なところだが、チャレンジしてみる価値はあると思う。筆者ももっと使い込んでみるつもりだ。

いってみれば「風」は現在、一般的なかな漢字変換システムに対するアンチテーゼである。文字を完全に利用者の意思で選び、なおかつタッチタイピングにこだわるという作者の並々ならぬ思い入れが感じられる。特に、どんな読みでも必ず仮想鍵盤の同じ位置に文字が出てくるよう、使用頻度まで考慮して辞書を作るにはかなり苦労されたことだろう。このようなソフトがシェアウェアとして存在するということだけでも、意義は非常に大きいといえる。

最後に、些細ながら気になった点を挙げておく。ひとつはキーカスタマイズ。ひとつの機能に対してあるキー操作を割り当てるようになっているので、「操作Aと操作Bは同じ働きをする」という重複した設定ができない。もうひとつはローマ字入力規則。基本的にはいろいろな入力方法ができるのだが、それでも「じゃ」の入力は"zya"または"ja"で、"jya"は許容しないといった部分がある。いずれも筆者の操作がいい加減なのかもしれないが、こういった部分でカスタマイズの幅が広いほど、他のIMEからの乗り換えもやりやすくなるのではないだろうか。

(なお、記事の前半のソフト概説のパートは実際に「風」を使って書きました)
(福住 護)


スクリーンショット》 別の読みで入力しても、同じ文字であれば必ず同じ位置に現れる
スクリーンショット》 変換や読みの再入力といったキーはもちろんカスタマイズ可能だ
スクリーンショット》 入力方式はローマ字、JISかな、OASYS、花の4種から選べる


【作 者】 冨樫 雅文 さん
【作者のホームページ】 http://member.nifty.ne.jp/togasi/
【補 足】 1999年12月31日まで自由に使用できる
ソフト作者からひとこと
「風」は、英文をタイプライタで打つのと同じ感覚と効率で日本語を入力するために開発されました。タイプライタではキーボードを見ないで打つタッチタイピングと、画面を見ないで打つ直接入力が可能です。「風」の超多段シフト方式は仮想的な漢字キーボードによって「日本語のためのタイプライタ」を実現しています。

変換辞書を鍛えるのではなく、自らを鍛えることで日本語入力の効率を上げることができるので、実務と練習の積み重ねによって日本語のタイピング技能が身についていきます。機械に相談しないで書きたい人、目を酷使して書くのではなく手を駆使して書きたい人い、そして練習の心地よさを知っている人は「風」を使う十分な理由を持つ人です。

「風つかい」として離陸するまでの滑走路も車輪も用意されています。試してみてください。
(冨樫 雅文)
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シェアウェア(3,000円)
超多段シフト方式日本語入力システム「風」 2.30 日本語を高速タッチタイピングで入力できるWindows用IME (1,800K)




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