定番はがき作成ソフト「筆ぐるめ」の新バージョン。「筆ぐるめ 2012」は、パッケージ版の「筆ぐるめ Ver.19」をベースにしたダウンロード版で、具体的にはパッケージ版から素材を厳選したものになる。新バージョン「2012」で追加された新機能は「かんたん宛て名入力」と「コラージュ」だが、「かんたん宛て名入力」の方は、機能というより考え方──ちょっと大げさな言い方をするなら思想といってよいかもしれない。氏名と住所だけを入力できるタブが追加されたのだが、これによって何かが「できるようになった」わけではない。新しいタブがなくても、従来の「自宅」タブに、氏名と住所だけを入力しておけばすむ話、新しいタブは「なかったとしても、どうにでもなる」ものだ。
では、このタブを追加したことに意味がないかというと、そうは思わない。はがき作成ソフトには宛先のリストが必要だが、どうせ宛先リストを作るなら、電話番号やらメールアドレスやら、ついでに何でも記録してしまえ、というのが、現在の「住所録」の考え方だろう。それは一見、多機能で便利なように見えるが、実は必ずしもそうではない。
電話番号やメールアドレスを登録して、必要なときに確認するのなら、はがき作成ソフトより便利なソフトはたくさんある。そういう用途にはがき作成ソフトは使わない。実際、はがき作成ソフトに携帯番号やアドレスを登録している人がどれほどいるだろう。
つまり「いろいろなことができる」「たくさん機能がある」ことは、そのまま「便利である」ことを意味しない。余計なものは「ない方が便利」なのだ。これまでのようにたくさん入力欄のあるところに空欄を作るより、空欄になるような項目はない方が便利だ。
「筆ぐるめ」で評価したいのは、この「使いやすさとは何か」がよく考えられているところだと筆者は思う。「かんたん宛て名入力」機能は、何ということのないものに思われるかもしれないが、「使いやすさとは」の象徴になるような変化のようにも思える。
(土屋 佳彦)