本来はカメラに対してまっすぐに取り付けられるはずの写真用レンズ。これを、故意に斜めに傾けられるように工夫されたレンズが「チルト(ティルト)レンズ」だ。一般的なデジタルカメラのレンズにはもちろんこうした仕組みはないが、レンズ交換ができるデジタル一眼レフカメラの一部──例えばキヤノンやニコン──には、こうしたレンズが用意されている。この種のレンズにはもうひとつ、フィルム面と平行にレンズを移動できる「シフトレンズ」もあり、チルト機構とシフト機構の両方を併せ持つレンズのことを「チルトシフトレンズ」と呼ぶ。「チルトシフトスタジオ」の名前の由来となっているのが、この「チルトシフトレンズ」だろう。
レンズを傾けて写真を撮影するとどうなるか。「シャインフリュークの法則」と呼ばれる光学原理によって計算されるのだが、結論をいえば、ピントの合う面がカメラから見て平行ではなく、「斜めの面」になる。チルトレンズはこの原理を応用して、カメラから見て斜めの面──例えば、上空から地上を撮影する場合や、撮影者から見て奥行き方向に伸びる壁面など──に対して幅広くピントを合わせる目的で使われる。
ところが、レンズを傾ける方向を逆向きにすると、本来は幅広い面にピントを合わせるはずが、逆にごく限られた範囲にのみしかピントが合わなくなる。本来とは逆の使い方という意味で「逆チルト撮影」というが、こうして撮影された画像には、まるで元のサイズよりもずっと小さな「ミニチュア」を撮影したかのような、おもしろい特性が現れる。「チルトシフトスタジオ」が行う画像加工は、まさにこの「逆チルト撮影」をソフトウェアで実現するものだ。
撮影方法を工夫すれば同じ効果が得られるなら、別に画像加工の必要はないと思うかもしれないが、実はこの逆チルト撮影、実際にはかなり難しい。チルトレンズの性格上、オートフォーカスは使えないし、効果に大きな影響を与える絞り値を決めるにも、かなりの経験が必要。それに、なにしろチルトレンズは特殊用途向けだけあり、非常に高価だ。
つまり、これまでは高価な機材を使い、深い知識と経験が必要とされた撮影を、「チルトシフトスタジオ」を使えば、誰でも簡単にできるようになるのだ。被写体によって“ミニチュア感”は異なるが、バッチリ決まればなかなかおもしろい画像を得ることができる。ぜひ一度体験してみてほしい。
(天野 司)