ソフトを開発しようと思った動機、背景
もともと音楽が好きだったのですが、まともに弾ける楽器の才はなく、かといって人の演奏を聴く一方では、いまひとつ醍醐味に欠ける――そんな気持ちが昂じてDTMソフトを開発することにしました。むろん、世の中にある高級なDTMソフトをそのまま活用する手もあったのですが、以下の点で私のイメージとは異なるソフトばかりでした。- 「あまりに高機能すぎて、どこから手をつけてよいのかわからない」
- 「画面が必要以上にゴチャゴチャしていて、音楽的な思考に集中できない」
- 「MIDIの知識を前提としており、16進コードと睨めっこ状態になる」
- 「マウスで音符をセットしてゆくのはやたらと手間がかかるし、気も遣う」
そんなわけで、MML(Music Macro Language)をベースとした独自コンセプトのソフト開発に挑みました。開発に臨んだ時点でも、すでにいくつかのMMLソフトはありましたが、どれも「MIDI知識前提」であることには変わりありませんでした。そして私の理想的なイメージは、テキストからMIDIバイナリへの単なるファイル変換ソフトではなく、もっと抽象度の高い音楽言語でした。つまり、真の意味で“音楽コンパイラ”と呼べるMMLがほしかったのです。開発中に苦労した点
最も力を入れたのは、やはり「Muse文法」の組み立てです。入力の簡便性、入力後の可読性、そして何より論理的な一貫性。それらを満たすために、発音機構であるMIDIの側面からではなく、具現対象である音楽の側面から考察を加え続けました。
当初は、MMLの世界で標準が確立されているならば、それに極力従おうと思ったのですが、分析すればするほど、MMLソフトの数だけ個々に記法が存在することがわかりました。そこで、従来のMML記法にとらわれることなく、私の理想を最高レベルで満たす言語設計に挑戦することにしたのです。
ある文法案ができると、そのコンパイラを試作し、その時点でいくつもの楽曲を入力して改良案を導き出す。再度、新しいコンパイラを作って入力し、再び改良案を模索する――この試行錯誤を何度も何度も繰り返しました。
手前味噌ではありますが、完成した現在のMuse文法は、美しいMML仕様になったと自負しております。ほかにもMIDIファイル出力処理の高速性や、実行モジュール容量のコンパクト性に力を注ぎました。昨今、やたらに巨大化傾向にあるソフトたちに比べ、「Muse」の速さや小ささは群を抜いており、その軽快感や爽快感の一役を担っていると感じています。
ユーザにお勧めする使い方
特徴的な機能ウィンドウに「譜面モニタ」があります。これにより「Muse」は、他のMMLソフトと一線を画するものになっています。MMLは「タイミングずれ」という入力ミスを起こしやすいのですが、譜面モニタは視覚的にタイミングを確認できるため、そのミス分析に大きな威力を発揮します。また、右クリックで瞬時に再コンパイルを行い、そのクリックポイントから演奏を開始してくれるので、テキスト入力と演奏を何度も繰り返すMML作業時の負荷を大幅に軽減できます。ぜひ、お試しいただければと思います。
譜面モニタは、一般のDTMソフトに見られるピアノロールではなく、五線譜上に音価を表示しますので、楽譜との見比べも容易です。しかも、色分けされたすべてのパートを一気に重ね表示しますので、その楽曲の持つ和声のイメージを把握分析しやすいというメリットもあります。
ソフト作者(加藤)に、自らお作りになったMuseデータをご送付いただければ、もれなく「mid2mus」という逆変換ソフトを無料進呈しております。このソフトを使うと、世にある膨大なMIDIを譜面モニタ上に展開して味わうことが可能となります。ぜひ、「mid2mus」を手に入れていただくことを推奨いたします。「Muse」の使用が何倍も楽しくなります。
今後のバージョンアップ予定
1999年に公開してから現在に至るまで、お陰様で多くのユーザにご支持をいただきました。その年月の中でいくつもの機能強化要望を承っており、それらの要望は、ソフト開発において大変貴重な情報だと認識しております。私の手元にはそのニーズ内容を整理し、管理しているリストがあり、すでに100を超える未開発項目がたまっています。
「Muse」はフリーソフトであり、趣味の域を出ませんが、今後も一歩ずつ強化を進め、より楽しめる美しいソフトを目指して開発を継続する所存です。末永くお付き合いいただければ幸いです。
(加藤 一郎)